前科があると刑が重くなる、というような話を聞いたことはあるでしょうか。なんとなく、裁判で有罪になったら前科、というような漠然とした認識を持っている方もいるかもしれません。
このページでは、前科とは何か、前科があった場合にどのような影響があるのか、「前歴」という言葉との違いは何なのか、などといった前科に関わることについてご紹介します。
前科や前歴は法律上の用語ではありません。一般に、前科とは、刑事裁判において確定済みの有罪判決を受けた事実を意味します。罰金刑など、身体を拘束されない刑罰となったとしても、前科となります。
前歴とは、被疑者として捜査機関の捜査対象となった事実を意味することが多いですが、一般用語として別の使われ方をすることもあります。捜査機関の犯罪経歴の記録に登録されると、別途事件を起こし、捜査機関が犯罪歴を照会した際にその記録が出てくることになります。
A.前科になりません
逮捕されただけでは当然有罪にはなっていませんから、前科にはなりません。
A.前科になります
略式手続は、公判(いわゆる公開の裁判)を開かずに書面審理で一定範囲の財産刑を科する手続であり、罰金刑等の確定判決を受けたことには変わりありません。そのため、前科となります。
罰金刑の制度については、こちらの記事をご覧ください。
A.前科になりませんが、前歴にはなります
不起訴処分は、検察官が起訴をしない、すなわち刑事裁判にしないことを決めた処分です。裁判になっていないのですから、有罪判決も受けておらず、前科にはなりません。ただし、不起訴処分の対象となった被疑事実について、捜査対象にはなったことから、前歴になります。
示談については、こちらの記事をご覧ください。
A.前科になります
執行猶予付きの判決だったとしても、有罪であることには変わりませんので、前科になります。
執行猶予については、こちらの記事をご覧ください。
A.どの立場で呼ばれたかで変わります
①参考人として呼ばれた場合
参考人といっても、目撃者や被疑者の家族等様々な立場があります。被疑者ではないため、前歴にならないことが多いといえます。しかし、場合によっては取調べの中で、又は取調べの後の捜査によって共犯者と疑われる事情、被疑者と疑われる事情が出てくる可能性はあり、参考人だからといって必ずしも捜査機関の記録に残らないとは限りませんので、注意は必要です。
②被疑者・重要参考人として呼ばれた場合
被疑者として呼ばれた場合、被疑事実について捜査対象になっていると言え、前歴として捜査機関の記録には残ることになります。重要参考人も、被疑者と言えるほど証拠が集まっていなくても、捜査機関にとっては被疑者類似の者であることが多く、捜査機関の記録に残る可能性はあります。
警察から取調べに呼ばれた場合、こちらのページも参照ください。
A.前歴になります(保護処分ではなく有罪判決を受けた場合には前科になります)
少年事件として少年時代に保護処分(保護観察、少年院送致、児童自立支援施設・児童養護施設送致)を受けた場合には、前歴となります。ただし、検察官送致といって、刑事裁判を受け、有罪判決になった場合には、成人と同様に前科となります。
少年事件については、こちらの記事をご覧ください。
ア 就職・資格制限
前科が付いた場合、一部の職業について採用、就職が制限され、既に有している資格をはく奪されることがあります。具体的には、以下の通りとなります(大コンメンタール刑法第三版第1巻より一部抜粋)。なお、就職活動の際に、履歴書の賞罰欄に「前科なし」と虚偽の記載をした場合、後日それが発覚すると、会社から懲戒処分を受ける可能性がありますので、注意が必要です。
①罰金以上の刑の場合、裁量によって欠格事由となる可能性があるもの
医師、歯科医師、理学療法士・作業療法士、薬剤師、保健師、助産師、看護師、柔道整復師、調理師、救命救急士など
②禁錮以上の刑の場合、欠格事由となるもの
裁判官、検察官、弁護士、裁判員・補充裁判員、精神保健審判員、民事・家事調停委員、保護司、学校校長及び教員、教育委員会委員、中央競馬の調教師、騎手、弁理士など
③禁錮以上の刑の執行終了後、又は執行を受けることがなくなった後、一定期間経過するまで欠格事由となるもの
❶2年経過するまで
旅客自動車運送事業者(バス・タクシー事業)、一般貨物自動車運送事業者・特定貨物自動車運送事業者(いわゆるトラック事業)、一般信書便事業者・特定信書便事業者、倉庫業者、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士など
❷3年経過するまで
公認会計士、司法書士、行政書士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、社会保険労務士、質屋、火薬類の製造業者・販売業者など
❸5年経過するまで
商工会役員、警備業者、貸金業者、宅地建物取引業者、一般建設業者、建築士、探偵業、古物商、風俗営業者、有料職業紹介事業者、一般労働者派遣事業者
④禁錮以上の刑の執行終了、又は刑の執行を受けることがなくなるまで欠格事由となるもの
一般職の国家公務員・地方公務員、自衛隊員、商工会議所の会員など
⑤特定の罪を犯して刑に処せられたときに裁量的に欠格事由となるもの
旅館業者(旅館業法又は同法に基づく処分違反)
イ 再度罪を犯した際の結果が重くなる
前科があると、裁判官が反省をしていないとの心証を抱き、前科がない時と比べて重い結果(判決)になる可能性はあります。
別途罪を犯した際の結果が不利になる
「前歴」と呼ばれるものには様々なものがあります。単に事件の捜査対象となっただけに過ぎない場合も、罪を犯した可能性は高いけれども、更生すると期待され、検察官が不起訴処分とした場合もあります。後者のような場合には、更に別の犯罪を犯してしまったような場合、公判請求されてしまったり、有罪となった場合の判決が重くなったりする可能性は十分にあります。
罪を犯したという犯歴記録は消えません。死亡するまで記録は保存され(犯歴事務規程18条)、いつ何罪を疑われ、結果どうなったのかといった履歴はずっと残ることになります。
もっとも、以下のような場合には、法律上、刑の言い渡しは効力を失います。すなわち、法律上前科はなくなります。
①禁錮以上の刑の執行を終了した、又は刑の執行を免除された者
→10年間新しく罰金以上の刑に処せられなかった場合
②罰金以下の刑の執行を終了した、又は刑の執行を免除された者
→5年間新しく罰金以上の刑に処せられなかった場合
ただし、法律上前科がなくなったとしても、犯歴があることには変わりがありませんので、更に罪を犯した場合、初犯より重い刑が科せられる可能性は高くなります。
前科が付くことにより、社会的な信頼を失うなど、実質的に今後の人生に影響が出る可能性は否定できません。
北千住パブリック法律事務所には、刑事事件に熱心に取り組む弁護士が多く、早期から最適な対応をとることが出来ます。ご家族が逮捕されたとき、又は警察から取調べに呼ばれているときなど、是非北千住パブリック法律事務所までご連絡ください。前科をつけないための最善を尽くします。また、前科がある方が新たに別の罪で疑われた場合も、今回の事件の裁判において、前科があるという事情を出来るだけ不利に働かないような弁護活動を行います。
<不起訴処分を獲得した例>