警察から電話がかかってきて,「話しを聞きたいので警察署まで来てほしい。」と言われたら,誰だって驚きます。
話をしたら帰れるのだろうか,それとも逮捕されてしまうのだろうか,刑務所に入れられてしまうのだろうか・・・
いろいろな考えが頭を駆け巡り,冷静に物事を考えることはできません。そのような時に,刑事事件の流れを知っているだけでも,少し落ち着けるかもしれません。
警察が犯罪の発生を認知した場合,捜査が開始します。犯罪をしたと疑われる人物(「被疑者」といいます。)が特定できたら,逮捕するか否かを検討します。
逮捕が必要だと判断し,裁判所が逮捕状を発付すると,被疑者は逮捕されて,身柄事件として捜査が進みます。また,犯罪をした直後であれば,現行犯逮捕されてしまう可能性があります。この場合には,犯人を間違える可能性が低いことから,逮捕状は必要ありません。
逮捕までは必要ないと判断した場合には,在宅事件として捜査が進みます。在宅事件の場合には,警察に呼び出されたときは出頭して取調べを受けますが,その時以外は,自宅で生活を続けることができます。
逮捕されるか否かは,刑事訴訟法上では①犯罪をしたことを疑うに足りる相当な理由があること,②明らかに逮捕の必要がないとは認められないことが要件とされています。
①は,犯罪をした犯人であるということについて,証拠があるか否かが問題となります。
②は,逮捕しなくとも逃げたり,証拠を隠滅したりすることがないか否かが問題となります。一般的には,軽微な犯罪でない限り,②は認められてしまいます。
逮捕されてからのことは,刑事訴訟法で厳格に時間制限が定められています。これは,逮捕が人の生活や自由を奪う強力な権限であるためです。
逮捕されてしまうと,72時間(3日間)は拘束されてしまいます。その間に,事件が検察庁に送られます(「送検」と言われるものです)。
そして,その後も拘束し続ける必要がある場合には,検察官が裁判所に勾留請求を行い,裁判官が勾留を認めるか否かを判断します。
裁判官が勾留を認めた場合には,10日間勾留されることになり,その後,さらに10日間まで勾留が延長されることがあります。
そのため,合計で23日間は逮捕・勾留されてしまう可能性があります。
この勾留期間中に,警察や検察が捜査し,最終的に検察官が起訴するか否かを判断します。
なお,保釈という言葉をニュースや報道で聞いたことがあると思います。保釈は,勾留されている人が保釈金を納めて拘束から解放される手続きです。しかし,現在の日本の法律では,保釈は起訴された後でなければ認められていません。そのため,この23日間の逮捕・勾留の時点では,保釈によって外に出ることはできません。
検察官は,勾留期間中に事件を起訴するか否かを判断しますが,起訴には通常の起訴と「略式起訴」があります。通常の起訴は,公開の法廷で裁判が行われますが,略式起訴の場合には,裁判官が書面をチェックするのみの簡単な手続きです。そのため,事件に争いのないもので,罰金刑の場合のみ認められています。
これに対して,不起訴になる理由も二つあります。一つは,「起訴猶予」と呼ばれるもので,証拠は十分にそろっているけれども,今回限りは起訴せずに終わらせるというものです。もう一つは,「嫌疑不十分」と呼ばれるもので,起訴して裁判とするだけの証拠が不十分であるというものです。
弁護人は,不起訴となることを目指します。そのための弁護活動は様々なものがありますが,典型的には被害者との示談交渉です。被害者と示談することができれば,不起訴の可能性が高まります。もっとも,検察官が起訴するかを判断する前に示談をしなければならないため,迅速な対応が求められます。
弊所の弁護士は,日々,限られた時間の中で個々の事件における最善の弁護活動を行っております。
⑴ 事件が起訴されて,正式裁判を行うことになると,検察官から公判で請求する予定の証拠が開示されます。
弁護士であっても,この段階にならなければ捜査資料を見ることが出来ません。また,この時に開示される証拠も,検察官が選んだほんの一部のみで,全ての証拠を弁護士が見ることは出来ません。
そして,検察官から開示された証拠や弁護士が独自に収集した証拠を検討して,弁護方針を組み立てます。一つ一つの証拠を隅々までチェックして,裁判官を説得できる弁護方針を固めることにより,公判で一貫した弁護活動を行うことが出来ます。
この時に,弁護士一人で考えていると,偏った証拠の見方をしてしまったり,重要な証拠を見落としてしまったりすることがあります。これを防ぐためにも,複数人で証拠を検討することが有用です。複数の弁護人が就任できれば,その弁護人間で検討すれば足りますが,通常の国選事件では,複数の弁護人が選任されることは例外的です。
弊所では,弁護士間で日常的に事件の相談を行ったり,事件検討会で個々の事件を検討したりして,事件を担当していない弁護士から意見を聞く機会が多くあります。これにより,弁護方針を見直して修正することができます。
⑵ 保釈請求
起訴されると,裁判所に対して保釈請求をすることができるようになります。
よく勘違いされますが,起訴される前の段階で保釈請求することは法律上出来ないことになっています。保釈は,起訴された後にのみ認められている制度です。
保釈の詳しい説明は下記のページをご覧下さい。
⑴ 起訴されてから約1ヶ月後〜2ヶ月後に公判期日が指定されます。公判期日では,冒頭手続き→証拠調べ手続き→論告弁論→判決言渡の流れで手続きが進行します。
起訴された内容を認める自白事件では,その多くが一回の公判期日で論告弁論まで行い,二回目の公判期日で判決が言い渡されることになります。
これに対して,起訴された内容を争う否認事件では,証拠を整理したり,何人も証人尋問を行ったりすることになるため,複数回公判期日が開かれます。
⑵ 冒頭手続き
冒頭手続きは,以下の流れで行われます。
・人定質問
裁判官が,被告人に氏名,本籍,住所,生年月日,職業の確認を行い,起訴された被告人と,法廷にいる人物が同一人物であることを確認します。
・起訴状朗読
検察官が,起訴したときに裁判所に提出した起訴状を読み上げ,どの事件について刑事責任を追及するのかを特定します。
・黙秘権告知
裁判官が,被告人に対して,「黙秘権」すなわち公判で一切喋らずに黙ったままでいることや,答えたい質問にだけ答えることができることを伝えます。
「黙秘権」は,一般的に警察や検察の取調べに対して行使するものと考えられており,その場合がほとんどですが,公判でも黙秘をすることがあります。
・罪状認否
最後に,検察官が読み上げた起訴状の内容について,裁判官から被告人に対して意見を聞かれます。ここで,事件を認めるのか否認するのか,否認するとしてその理由は何か(例えば,殺意がなかったことや正当防衛の主張)を簡単に述べます。
そして,弁護人も同様に意見を述べます。ここでは,公判期日までに証拠等を検討して作り上げた弁護方針に沿った主張を行うことになります。
⑶ 証拠調べ手続き
冒頭手続きが終わると,証拠調べ手続きに入ります。ここでは,文書の証拠である書証や証人を尋問する人証,被告人自身から話を聞く被告人質問等を行います。
刑事裁判では,全ての文書を裁判所へ証拠として提出することができるわけではありません。裁判所へ提出することについて,相手方当事者(検察官が提出する証拠については弁護人,弁護人が提出する証拠については検察官)の同意が必要で,裁判官もその文書を証拠とする必要があると判断して採用されなければなりません。そのため,提出する証拠は吟味する必要がありますし,検察官が提出しようとする証拠に対しては,本当に証拠とする必要があるのかを熟慮する必要があります。
また,人証では,公判廷に証人に来てもらい,裁判官の前で話しをしてもらうことになります。ここでは,検察官・弁護人・裁判官それぞれから証人に対して質問があり,的確に答えられなければ,証言が信用されなくなる可能性があります。そのため,公判廷で何を話すのかということはもちろんのこと,相手方当事者や裁判官からどのような質問がされるのかを予想して,事前に答えを用意しておくことも重要になります。
そして,被告人が裁判官に対して話をする場である被告人質問が行われます。被告人は,黙秘権が保障されていることから,証人尋問の証人にはなれません。しかし,事件の当事者であることから,証拠調べ手続きの中で被告人が話をする機会が与えられています。
⑷ 論告弁論・意見陳述
公判の最後に,各当事者から意見を述べる機会があります。検察官からの意見を論告,弁護人からの意見を弁論と言います。そして,検察官の論告の最後に,求刑がなされます。
この論告と弁論は,証拠調べ手続きで提出された証拠や証人尋問の証言,被告人の供述から,この事件で求める結論に至るまでの道筋を示し,裁判官を説得する機会です。例えば,執行猶予判決を求めるのであれば,証拠に基づいてなぜ執行猶予判決が相当であるのか,逆に言うと,実刑判決にする必要がないのはなぜかといことを説得的に主張することになります。
そして,最後に,被告人が意見を述べることができます。すでに被告人質問で主張したいことは話していることがほとんどですので,ここでは改めて裁判官に伝えたいことを端的に述べることが多いです。
⑸ 判決言渡し
裁判官は,検察官・弁護人・被告人それぞれから意見を聞いた後,証拠調べ手続きでの証拠を吟味して,判決の内容を検討します。
そして,公開の法廷で,被告人に対して,判決を言い渡します。
以上が一般的な刑事事件の公判の流れですが,否認事件や裁判員裁判対象事件については,この流れが大きく変わり,複雑になります。また,一回で公判が終わってしまうような自白事件であっても,弁護人の弁護活動次第で,判決の内容が変わることはあります。
そのため,誰に弁護人を依頼するのかは,どのような事件であっても重要です。
弊所では,刑事事件の経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。以上のような刑事事件の流れや見通しについても丁寧にご説明いたしますので,まずはご相談ください。
明治大学法学部卒業
中央大学法科大学院卒業
2016年弁護士登録
サッカー・漫画を読むこと
継続は力なり
困っている人の力になりたいと思い、弁護士になりました。トラブルに巻き込まれてしまっても、その影響を最小限に抑え、これまで通りの生活が出来るよう尽力します。