殺人罪は、人を殺すことで成立する罪です(刑法199条)。
人を殺すとは、①人の生命を奪うことに加え、②殺意をもって①の行為を行うことを指します。
いわゆる時効とは、刑法においては公訴時効のことを指すことが一般的です。犯罪が終わった時から一定期間経過した場合、犯人を処罰できなくなるという定めのことを指します。
殺人罪には、時効はありません。以前は、犯罪行為が終わった時から25年という公訴時効が定められていました。しかし、2010年4月27日に公訴時効が廃止され、廃止の時点で公訴時効が完成していない過去の犯罪を含めて、犯罪行為の時からどれだけ時間が経過したとしても、犯人を処罰することが出来るようになりました。
殺人罪の罰則は、死刑または無期懲役若しくは5年以上の懲役です。刑法では、期間の定めのある懲役の場合、20年以下と定められていますので(刑法14条2項)、原則として、死刑か、無期懲役か、5年から20年の懲役ということになります。
もっとも、有期懲役刑の場合、事案によっては30年まで重くなることもありますし、逆に1か月まで短くなることもあります。
殺人の罪を犯した場合、必ず刑務所に入らなくてはならないのでしょうか。
法律では、有罪判決で言い渡された刑の執行を猶予する制度として、執行猶予制度というものがあります。執行猶予となった場合、懲役刑となったとしても、刑務所に入らずに自宅に帰ることが出来ます。
執行猶予は、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金の言い渡しを受けた者で、かつ次の条件のいずれかを満たした場合に可能です。
①前に禁固以上の刑に処せられたことがない者
②前に禁固以上の刑に処せられたことがあっても、執行終了日または執行免除日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
例えば、「懲役3年執行猶予5年」という判決が出た場合、3年間の有期懲役刑ですが、5年間は刑の執行を猶予され、刑務所に入らなくても済みます。もっとも、執行猶予期間中に新たに罪を犯すと、執行猶予が取り消されてしまい、刑務所に入らなければならなくなる可能性があります。上の例の場合、新しい罪の懲役に3年間を加えた期間、刑務所に入ることになります。
その他、一部執行猶予といって、刑の一部のみの執行猶予を受けることのできる制度もあります。
執行猶予について詳しくは以下のページをご覧ください。
殺人罪は、上記2に記載したとおり、最低でも5年以上の懲役となります。そのため、基本的には執行猶予はつきません。
しかし、絶対刑務所に行かなければならないかと言われれば、そうではありません。減刑事由があると、刑の期間が減らされる可能性があり、その場合には、懲役の最低ラインが1か月まで下がることもあります。そうすると、執行猶予が付く可能性もあります。
減刑事由として法律では、未遂罪、過剰防衛、過剰避難、心神耗弱、自首などが挙げられています。
これらのような事情が認められた場合には、刑の期間が減らされる可能性があります。期間が減らされた結果、3年以下の懲役刑となった場合には、殺人罪であっても執行猶予が付く可能性も残されています。
なお、正当防衛など、そもそも処罰されない(=無罪になる)ことになる事由もあります。
時折、被害者が1人だと死刑にならない、といったネットの書き込みや噂を聞いたことはないでしょうか。
結論から言いますと、1人だからといって必ずしも死刑にならないわけではありません。
最高裁判所が、死刑を適用するための基準として、昭和58年に出した基準があります。いわゆる永山基準という名前で呼ばれているものです。その中で挙げられた項目としては以下のものがあります。
①犯行の罪質
②犯行の動機
③犯行の態様(特に、殺害手段方法の執拗性・残虐性)
④結果の重大性(特に、被害者の数)
⑤遺族の被害感情
⑥社会的影響
⑦犯人の年齢
⑧犯人の前科
⑨犯人の犯行後の情状
※情状とは、犯罪に関する事情や、それ以外の量刑に関する事情などを指します。
“死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であつて、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければならない。”〔最高裁昭和58年7月8日判決(刑集37巻6号609頁)〕
上記の考慮要素の中で、被害者の人数も考慮されています。そのため、被害者の人数が少なければ死刑を回避する方向の事情として働くでしょう。
しかし、被害者の人数はあくまで考慮要素の一つですので、この考慮要素をもとにしたとしても、被害者が1人だからといって死刑にならないわけではありません。
近年、1名でも死刑判決となる場合も出てきています。特に、平成21年から裁判員裁判が始まり、一般の国民の方々の意見が刑事裁判に反映されるようになり、上記のような考慮要素だけに縛られない判決が出てきたように思います。
一般の方々の意見の反映としてこのような変化が生じていることについては、死刑廃止論を含め、十分に検討する必要があるといえます。
殺人と言っても、その内容や背景には様々なものがあります。
ニュースで大々的に報道されるような悪質なものも、介護の末に殺人を犯してしまったなど、同情の余地のある事件もあります。
一口に殺人事件と言っても、こういった事情によって、最適な弁護活動は変わってきます。また、受刑中や受刑後において、精神的な治療が必要な場合、生活のための環境調整が必要な場合など、事件についての活動以外についても考慮しなければならない場合もあります。弁護士に依頼するメリットとしては、このような事件ごとの最適な対応をとることが出来る点にあります。
人が亡くなっている事件ですから、逮捕、勾留される可能性が高いです。その場合、逮捕されてから最大23日は捕まったまま取り調べられることになります。
取調べでは、話した内容が供述調書という書類にまとめられます。警察官や検察官は、事件の捜査や起訴が仕事ですから、取調べではなんとか罪を認めさせようとあの手この手を使ってきます。また、話したこととは異なる内容を書面にまとめられる可能性もあります。
弁護士に依頼すると、このような取調べでどのように対応すればいいか助言を受けることが出来ます。逮捕、勾留されている方にとって、不利、不当な捜査から逃れることが出来るのです。
また、弁護士は一般の方の面会と異なり、24時間警察署において面会をすることができます。警察官の立ち合いもありません。逮捕、勾留されている方にとって、外部との交流は非常に重要なものとなっています。制限なく面会できることは、弁護士を依頼する大きなメリットとなるでしょう。
殺人罪は、裁判員裁判対象事件です。国民の中から選ばれる裁判員が裁判に参加し、数日間にわたって集中的に審理を行う裁判員裁判は、いわゆる通常の裁判とは全く異なります。法的知識のない裁判員の方々にもわかりやすい公判活動をする必要があります。
弊所では、裁判員裁判対象事件を多く扱っている弁護士が在籍しているとともに、裁判員裁判のための所内外の研修を受けるなどして、日々研鑽を積んでおります。
さらに、先ほど述べたとおり、殺人罪には死刑の可能性があります。そのため、死刑回避のための弁護活動は他の事件よりも一層重要となってきます。
ご家族などが殺人罪で捕まってしまった方、殺人罪にあたる行為をしてしまったので、今後の最善の動き方を知りたい方など、是非当事務所までご相談ください。依頼者に寄り添い、最善の弁護活動をいたします。
殺意を持って殺人罪の実行に着手したものの、「人を殺す」という結果が生じなかったことを言います。
実行に着手とは、他人の生命に対する現実的危険性のある行為を開始したことと定義されることが一般的です。例えば、人を殺すためにナイフを購入しただけでは、まだ人が死ぬ危険性が現実的にあるとはいえないため、実行に着手したとは言えません(別の罪が成立する可能性はあります)が、ナイフを相手に対して振りかざしたりした場合には、実行に着手したと言えます。
殺人未遂罪の量刑は、殺人罪と同じ死刑又は無期懲役、5年から20年の懲役になります。懲役が1か月まで短くなったり、30年まで長くなる可能性があるのも殺人罪と同様です。
もっとも、殺人未遂罪は、人の死亡という結果が生じていませんので、その罪を軽減することが出来ると定められています(刑法43条)。実際に人が亡くなった場合よりも、罪が軽くなることがあるということです。ただ、中止未遂という特殊な場合にあたらない限り、罪を軽減「できる」というだけですので、事案によっては軽くならない場合もあることには注意が必要です。
⑵のとおり、殺人未遂罪は死刑にもなりうる罪です。しかし、被害者の死亡結果が生じていないこともあり、公訴時効は25年と定められています(刑事訴訟法250条2項1号)。
殺人未遂罪は、たしかに殺人罪と異なり、被害者が亡くなったわけではありません。しかし、上記のとおり、量刑は殺人罪と変わらず、死刑の可能性もあります。裁判員対象事件でもあります。
また、被疑者段階(犯人として疑われているけれども、起訴されていない状態)の場合、被害者は亡くなっているけれども、疑われている行為と死亡の結果との間の因果関係が明確なものではないときには、疑われている犯罪名が殺人未遂となることもあります。この場合、殺人罪として起訴される可能性もあります。
そのため、弁護活動の重要性は殺人罪と変わりません。
ご家族などが殺人未遂罪で捕まってしまった方、殺人未遂罪にあたる行為をしてしまったので、今後の最善の動き方を知りたい方など、是非当事務所までご相談ください。依頼者に寄り添い、最善の弁護活動をいたします。