刑事事件の第一審の判決に納得できない場合、所定の手続きを経て「控訴」をすることができます。今回は「控訴」についてご説明します。
この記事は弁護士國府田豊が執筆しています。
控訴とは、第一審の判決に対して不服がある場合に、上級の裁判所に対して新たな判決を求める手続きを言います(刑事訴訟法372条)。
刑事裁判の第一審は、地方裁判所又は簡易裁判所で行われますが、その判決に納得できない場合、高等裁判所で審理を求めることになります(裁判所法16条1号)。
なお、控訴と似た手続きとして「上告」というものがあります。
「上告」とは、高等裁判所の判決に対して不服がある場合に、さらに上級の裁判所に新たな判決を求める手続きをいいます(刑事訴訟法405条)。
刑事事件で上告審を担当するのは最高裁判所です(裁判所法7条1号)。
もっとも、上告審が認められるのは、原則として控訴審の判決が憲法違反又は判例違反の場合に限られているなど、非常に狭き門となっています。
これらの「控訴」と「上告」をまとめて、「上訴」と言います。
「上訴」とは、裁判に対する不服を理由として、上級の裁判所に対して新たな判決を求める不服申し立てのことを言います。
控訴審には第一審と異なる特徴があります。
第一審では、起訴状記載の公訴事実についての審理が行われます。
そのために証拠の取調べや証人尋問を行い、起訴状記載の公訴事実が認定できるか審理を行います。
しかし、控訴審は、第一審の審理をやり直すのではありません。
控訴審は、第一審の事件をもう一度審理するのではなく、第一審の判決や手続きに誤りがないかどうかを「事後的に」審理するものです。
したがって、原則として証拠の取調べや証人尋問はされず、第一審の記録や控訴趣意書などの書面を審査する形で進められます。
第一審では、裁判官が1人だけで審理する場合と、裁判官3人の合議体によって審理する場合があります。
特に裁判員裁判の場合には、必ず裁判官3人と裁判員6名の合議体によって審理されます。
しかし、控訴審は必ず裁判官3人のみの合議体によって審理されます(裁判所法18条1項)。
第一審では、被告人は裁判に出頭する義務がありますので、公判期日に必ず出頭しなければなりません(刑事訴訟法273条2項)。
しかし、控訴審では、被告人は裁判に出頭する義務はありません(刑事訴訟法390条)。
ただし、裁判所が必要と判断した場合は、出頭を命じられることがあります。
上述のとおり、控訴審は、第一審のやり直しではなく、第一審の判決や手続きに誤りがないかどうかを事後的に審理するものです。
したがって、第一審で取り調べられていない新たな証拠を、控訴審で提出することは難しいです。
刑事訴訟法382条の2
やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であっても、控訴趣意書にこれを援用することができる。
不利益変更禁止の原則とは、被告人や弁護人が控訴した場合に、控訴審裁判所は第一審裁判所の原判決よりも重い刑を科すことができないという原則です(刑事訴訟法402条)。
第一審の判決に対して不服がある場合、どのような場合でも控訴をすることができるとは限られません。控訴理由は、刑事訴訟法に明記されており、この控訴理由に該当しない限り、控訴することはできません。
※北千住パブリック法律事務所にご相談いただいた場合、第一審の事件記録を全て見直し、控訴の可能性を幅広く検討します。
刑事訴訟法に明記されている控訴理由は、以下のとおりです。
●絶対的控訴理由(刑事訴訟法377条・378条)
絶対的控訴理由とは、違法の程度が強く、その違反が第一審の判決への影響の有無にかかわらず控訴を認めるものです。
・法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと
・法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと ・審判の公開に関する規定に違反したこと
・不法に管轄又は管轄違を認めたこと
・不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと
・審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと
・判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること
●相対的控訴理由(刑事訴訟法379条)
相対的控訴理由とは、絶対的控訴理由と比べて違法の程度は強くないものの、その法令違反が第一審の判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に控訴を認めるものです。
ここでいう「判決に影響を及ぼすことが明らかな場合」とは、その法令違反がなければ異なる判決がなされたであろうという可能性が高い場合を意味します。
●その他の控訴理由
・法令適用の誤り(刑事訴訟法第380条)
一審の判決に法律の解釈・適用の誤りがあり,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである場合
・量刑不当(刑事訴訟法第381条)
第一審の判決の量刑が不当である場合
・事実誤認(刑事訴訟法第382条)
一審の判決に事実の誤認があって、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合
・再審事由(刑事訴訟法第383条1号)
確定した判決に対して再審請求ができる事由がある場合
第一審判決の翌日から数えて14日間以内に、高等裁判所宛の控訴申立書を第一審裁判所に提出します。
並行して、証拠の再検討・判決の精査を行います。
※証拠の再検討や判決の精査を一般の方が独自に行うことは極めて難しいです。北千住パブリック法律事務所にご相談いただければ、全ての証拠を再検討し、判決を多角的に検討して、控訴の可能性を見出します。
控訴趣意書の提出期限までに、控訴の理由を詳細に記載した控訴趣意書を高等裁判所に提出します。
新たな証拠等があれば、事実取調べ請求を行い、採用されるように求めます。
適法な控訴がなされていない(控訴申立書や控訴趣意書が法令上の方式に違反している等)場合には、判決ではなく決定で控訴が棄却されてしまう場合があります。
※適法な控訴の申立てをするためにも、刑事事件に精通している北千住パブリック法律事務所にご相談されることをおすすめします。
控訴趣意書に基づく弁論を行います。
必要に応じて、新たな証拠の取調べや被告人質問等が行われることがあります。
控訴審の判決の種類には大きく2つの種類があります。
A 控訴棄却判決
控訴の申立てが不適法な場合や、法定の控訴理由が存在しない場合には、控訴棄却判決がなされます。
B 破棄判決
法定の控訴理由があると判断された場合、第一審判決を破棄する旨の判決がなされます。
第一審破棄の判決が下された場合、第一審が存在しないことになるため、控訴審は以下のいずれかの措置を採ることになります。
B―①破棄自判
高等裁判所が自ら新たな判決を言い渡す場合です。
B―②破棄差戻し
事件を第一審裁判所に戻して、裁判のやり直しをさせる場合です。
B―③破棄移送
第一審裁判所と同等の他の裁判所に事件を移して審理をさせることです。
一般的な刑事事件の流れについてはこちらの記事をご覧ください。
保釈とは、保釈保証金を裁判所に納付を条件として、起訴された後の被告人の身柄を解放する制度です。
保釈は起訴された後のみに請求ができる制度であり、起訴前には保釈制度はありません。
起訴前に身柄を解放する弁護活動は、勾留請求の却下に向けた活動、勾留決定に対する準抗告などです。
在宅事件についてはこちらの記事をご覧ください。
保釈請求は起訴された後であれば、公判が始まる前でも後でも判決が確定するまでの間であれば、いつでも何度でも請求できます。
被告人本人やそのご家族も保釈の申請をすることが出来ますが、認められる可能性は極めて低いです。
保釈の可能性を高めるためにも、刑事事件に精通した北千住パブリック法律事務所にご相談されることをおすすめします。
一般的な保釈についてはこちらの記事をご覧ください。
第一審で保釈が認められていても、実刑判決が言い渡されてしまった場合には、保釈が効力を失うことになります(刑事訴訟法343条)。
その結果、判決があった日から再度刑事施設に収容されることになります。
ここから再び身柄を解放してもらうためには、再度保釈請求をする必要があります。
このように、第一審の実刑判決後の保釈のことを「再保釈」と言うことがあります。
刑事訴訟法343条
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第九十八条の規定を準用する。
第一審の保釈は、大きく
① 一定の要件に該当しない場合に保釈が認められる場合(権利保釈・刑事訴訟法89条)
② 裁判所が裁量で保釈を認める場合(裁量保釈・刑事訴訟法90条)
があります。
しかし,控訴審における保釈では、権利保釈が認められておらず、基本的には裁量保釈しか認められていません(刑事訴訟法344条)。
刑事訴訟法344条
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった後は、第60条第2項但書及び第89条の規定は、これを適用しない。
したがって、控訴審で保釈を求める場合、罪証隠滅を疑う相当な理由がないことをのみを主張したのでは不十分です。
再保釈をするためには、逃亡や罪証隠滅のおそれがないことなどを具体的に主張するとともに、「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」についても具体的に主張する必要があります。
※再保釈の可能性を高めるためにも、控訴審の事件も積極的に受任している北千住パブリック法律事務所にご相談されることをおすすめします。
控訴審において保釈が認められた場合、裁判所が定める金額の保釈金を裁判所に納めることで、身体拘束が解かれることになります。
第一審段階の保釈金の相場は、事件の類型によって大きく上下しますが、一般的に200万円程度と言われています。
しかし、控訴審での保釈の場合、当初の保釈金よりも増額されることが多く、第一審段階の保釈金の1.5倍程度の保釈金を用意する必要がある場合があります。
第一審段階の保釈金を流用し、増額部分だけを用意するということもできます。
その場合、判決の前段階から迅速に保釈の準備等を行う必要があります。
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殺人被告事件の控訴審で,懲役18年の原審判決を刑訴法397条1項及び381条に基づき破棄し,懲役16年とする判決を獲得しました。(弁護士:前原 潤)
被害額1000万円を超える詐欺被告事件控訴審において、執行猶予判決を獲得しました。(担当弁護士:押田朋大、宮野絢子)
殺人被告事件の控訴審において心神喪失が認められ逆転無罪判決を獲得しました。(担当弁護士:伊藤荘二郎)
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早稲田大学大学院法務研究科修了
2021年弁護士登録
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